薬と生態系
今日は、自然界の生物と、人工的産物である薬の関係について。
5月19日、イギリスでショックな報告書が出たばかりです。
Jim O’Neil という、BRIKs (Brazil, Russia, India, China, South Africa) という用語を生んだエコノミストがとりまとめた、Tackling Drug-Resistant Infections Globally (薬への耐性を持つ感染への世界レベルでの対処) という報告書の中間とりまとめ。
20世紀前半、ペニシリンが最初に開発されて以来、抗生物質は様々な人を救ってきました。
「20世紀における偉大な発見」とも言われたほど、多くの命が救われ、それまでは致命的だった病気や怪我の治療が可能になったのです。
しかし徐々に、様々な抗生物質が非常に気軽に処方されるようになり、日本でも病院へ行くと「とりあえず」処方される例もまだまだ多いはずです。
ただ、自然の生態系の生物(菌)は、環境に合わせ進化していくもの。
抗生物質という人工的な化学物質は、菌のある特定の箇所をめがけてピンポイントで働きます。
結果、菌を殺しますが、その特定箇所だけを進化させればよいため、菌は抗生物質への耐性を構築しやすい、と考えればわかりやすいかと思います。
ついに、抗生物質の「黄金時代」が終わってしまったのです。
この中間報告書では、抗生物質への耐性を獲得した菌、「スーパーバグ」が原因で死亡する人の数が毎年1000万人に上る恐れがある、としています。
つまり、今なら抗生物質を飲んでおけば治まるような一般的な細菌感染で死んでしまう人が出てくる可能性があるということです。
この報告では、対策として9つの策が挙げられていますが、そのうち7つはどうやって抗生物質の過剰使用を減らせばよいかという点について。
残りの2つが新たな抗生物質の研究と開発の推進について、となっています。
抗生物質の研究開発は、利益が少ないために製薬業界は進んでやりたがらないからです。
抗生物質の削減の方法として主なものはもちろん、必要以上に処方しないこと。
そしてもう一つこのブログのトピックである動物に関係する大きな柱が、家畜に大量投与される薬の削減です。
アメリカやイギリスでは、抗生物質を使用していない食肉、というラベルを見ることがあります。
なぜ家畜に大量に抗生物質を投与する必要があるのか、という点を少し考えてみると...
狭い劣悪な環境でぎゅうぎゅうに押し込められている家畜たちは、すぐに病気になってしまうからです。
AFPニュースより
この原因はもちろん、食肉需要の増加、つまり、肉を食べる人口も、肉食自体も、増えていることが原因なのです。
自然界の生物(細菌)と、抗生物質。
おもしろいことに、自然界にある抗生物質と同じような働きをする食べ物や薬草は、抗生物質のように特定箇所だけに働きかけるのではなく、菌を全体として捉え(全体=ホリスティック)様々な箇所に働きかけるため、菌が耐性を構築しづらいというのです。
ペニシリン以前から、太古の昔から人間が存続していることを考えると、うまくこうしたものを使ってきた、そして自然と共存してきた、ということでしょう。
薬剤への過剰な信頼と手軽さが、この私たちの祖先が脈々と受け継いできたホリスティック医療の知恵を軽視させる文化を生んだ一因であることは間違いありません。
もちろんこの抗生物質の問題は世界各国がみな取り組まなければ意味がありません。
日本でももっともっと、抗生物質や抗菌製品について、政府主導の意識改革と規制、そして業界への支援と協働が必要です。
個人としては?
手軽なところでは、肉食の量について、もっと真剣に考える必要があります。
また、病院に行ってとりあえず出される抗生物質、本当に細菌性の病気でない場合に処方されていたら(されている場合がたくさんあります)、Noと言うこと。
抗菌スプレー、除菌グッズを今すぐにやめること。
合成された抗菌・除菌グッズは99%の菌を殺します。
でも、残りの1%は、耐性を構築しどんどん強くなっていきます。
キッチンでこうしたグッズを1か月使うと、結局は1か月かけてこの1%の強力な菌を培養しているのと同じことなのです。
この点については、また来週。
報告書本文:http://amr-review.org/sites/default/files/160518_Final%20paper_with%20cover.pdf
その他参考:
http://amr-review.org/
http://www.afpbb.com/articles/-/3087606
http://amr-review.org/industry-declaration
http://www.scientificamerican.com/article/strange-but-true-antibacterial-products-may-do-more-harm-than-good/
5月19日、イギリスでショックな報告書が出たばかりです。
Jim O’Neil という、BRIKs (Brazil, Russia, India, China, South Africa) という用語を生んだエコノミストがとりまとめた、Tackling Drug-Resistant Infections Globally (薬への耐性を持つ感染への世界レベルでの対処) という報告書の中間とりまとめ。
20世紀前半、ペニシリンが最初に開発されて以来、抗生物質は様々な人を救ってきました。
「20世紀における偉大な発見」とも言われたほど、多くの命が救われ、それまでは致命的だった病気や怪我の治療が可能になったのです。
しかし徐々に、様々な抗生物質が非常に気軽に処方されるようになり、日本でも病院へ行くと「とりあえず」処方される例もまだまだ多いはずです。
ただ、自然の生態系の生物(菌)は、環境に合わせ進化していくもの。
抗生物質という人工的な化学物質は、菌のある特定の箇所をめがけてピンポイントで働きます。
結果、菌を殺しますが、その特定箇所だけを進化させればよいため、菌は抗生物質への耐性を構築しやすい、と考えればわかりやすいかと思います。
ついに、抗生物質の「黄金時代」が終わってしまったのです。
この中間報告書では、抗生物質への耐性を獲得した菌、「スーパーバグ」が原因で死亡する人の数が毎年1000万人に上る恐れがある、としています。
つまり、今なら抗生物質を飲んでおけば治まるような一般的な細菌感染で死んでしまう人が出てくる可能性があるということです。
この報告では、対策として9つの策が挙げられていますが、そのうち7つはどうやって抗生物質の過剰使用を減らせばよいかという点について。
残りの2つが新たな抗生物質の研究と開発の推進について、となっています。
抗生物質の研究開発は、利益が少ないために製薬業界は進んでやりたがらないからです。
抗生物質の削減の方法として主なものはもちろん、必要以上に処方しないこと。
そしてもう一つこのブログのトピックである動物に関係する大きな柱が、家畜に大量投与される薬の削減です。
アメリカやイギリスでは、抗生物質を使用していない食肉、というラベルを見ることがあります。
なぜ家畜に大量に抗生物質を投与する必要があるのか、という点を少し考えてみると...
狭い劣悪な環境でぎゅうぎゅうに押し込められている家畜たちは、すぐに病気になってしまうからです。
AFPニュースより
この原因はもちろん、食肉需要の増加、つまり、肉を食べる人口も、肉食自体も、増えていることが原因なのです。
自然界の生物(細菌)と、抗生物質。
おもしろいことに、自然界にある抗生物質と同じような働きをする食べ物や薬草は、抗生物質のように特定箇所だけに働きかけるのではなく、菌を全体として捉え(全体=ホリスティック)様々な箇所に働きかけるため、菌が耐性を構築しづらいというのです。
ペニシリン以前から、太古の昔から人間が存続していることを考えると、うまくこうしたものを使ってきた、そして自然と共存してきた、ということでしょう。
薬剤への過剰な信頼と手軽さが、この私たちの祖先が脈々と受け継いできたホリスティック医療の知恵を軽視させる文化を生んだ一因であることは間違いありません。
もちろんこの抗生物質の問題は世界各国がみな取り組まなければ意味がありません。
日本でももっともっと、抗生物質や抗菌製品について、政府主導の意識改革と規制、そして業界への支援と協働が必要です。
個人としては?
手軽なところでは、肉食の量について、もっと真剣に考える必要があります。
また、病院に行ってとりあえず出される抗生物質、本当に細菌性の病気でない場合に処方されていたら(されている場合がたくさんあります)、Noと言うこと。
抗菌スプレー、除菌グッズを今すぐにやめること。
合成された抗菌・除菌グッズは99%の菌を殺します。
でも、残りの1%は、耐性を構築しどんどん強くなっていきます。
キッチンでこうしたグッズを1か月使うと、結局は1か月かけてこの1%の強力な菌を培養しているのと同じことなのです。
この点については、また来週。
報告書本文:http://amr-review.org/sites/default/files/160518_Final%20paper_with%20cover.pdf
その他参考:
http://amr-review.org/
http://www.afpbb.com/articles/-/3087606
http://amr-review.org/industry-declaration
http://www.scientificamerican.com/article/strange-but-true-antibacterial-products-may-do-more-harm-than-good/
2016-05-21 12:00
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